ガイド
PS4 はエミュできて PS5 が難しい理由:x86・AMD の GPU・シェーダー・暗号化をやさしく解説(用語集つき)
ポイント
- PS4・PS5 の CPU はどちらも AMD の x86-64 で、PC と同じ命令セットです。エミュは CPU 命令を翻訳せず、ゲームのコードを PC の CPU でそのまま実行します。
- 本当に大変なのは GPU です。ゲームは AMD のカスタム GPU(PS4 は GCN、PS5 は RDNA 2)向けに作られていて、エミュは GPU の命令とシェーダーを Vulkan 向けにリアルタイムで変換します。これがカクつきの主な原因です。
- PS5 が難しいのは、GPU のアーキテクチャが新しく、グラフィックス API が違い、ゲームの規模が大きく、専用の展開ハードや高速 SSD まであるからです。本格的な PS5 エミュの開発は2026年に始まったばかりです。
- ゲームとシステムのファイルは暗号化されています。エミュが読むのは復号済みのファイルで、復号はエミュの仕事ではありません。
- スマホと Apple シリコン Mac は ARM なので、先に x86 のコードを ARM に翻訳する必要があり(Rosetta 2・FEX)、x86 の PC よりずっと難しくなります。
目次
PS4 のエミュがここまでうまく動くのは、PS4 の CPU が PC と同じ x86-64 で、ゲームのコードを PC の CPU でそのまま実行できるからです。エミュが本当にやるべきことは、PlayStation 専用の AMD 製 GPU 向けの命令とシェーダーを PC の GPU 向けに変換することと、大量のシステムライブラリを書き直すことです。 PS5 の CPU も x86-64 なので出だしは早かったものの、GPU のアーキテクチャが新しく、グラフィックス API が違い、ゲームも大きく、専用の展開ハードや高速 SSD といった PS4 にはなかった要素もあるため、2026年11月時点でも大作は遊べる段階にありません。スマホと Apple シリコン Mac は ARM なので CPU の翻訳が一段増え、さらに難しくなります。
まずハード:PS4 と PS5 の中身
| PS4(2013年) | PS5(2020年) | |
|---|---|---|
| CPU | AMD Jaguar 8コア、1.6GHz、x86-64 | AMD Zen 2 8コア、最大 3.5GHz、x86-64 |
| GPU | AMD GCN ベースのカスタム、18 CU | AMD RDNA 2 ベースのカスタム、36 CU、最大 2.23GHz、10.28 TFLOPS |
| メモリ | GDDR5 8GB(176GB/s) | GDDR6 16GB(448GB/s) |
| ストレージ | HDD | 825GB のカスタム SSD、生の速度 5.5GB/s、ハードウェア展開(zlib・Kraken 対応) |
どちらの世代も CPU と GPU を1つのチップにまとめた AMD 製で、CPU の命令セットは PC と同じです。PS4 は x86 を採用した初めての PlayStation で、その前の PS3 は PC の CPU とはまったく違う IBM の Cell プロセッサーでした。PS3 のエミュは、まず CPU 命令の翻訳という壁を越える必要がありました。
エミュがやること
| 部分 | 実機では | エミュ(shadPS4)の処理 | 難しさ |
|---|---|---|---|
| CPU | AMD Jaguar がゲームの x86-64 コードを実行 | エミュレートしない。PC の CPU で直接実行。必要なのは対応する命令レベル(AVX2 を含む x86-64-v3)だけ | 低 |
| GPU | ゲームがコマンドパケットとシェーダーを AMD 製 GPU に直接渡す | コマンドパケットを解析し、GCN のシェーダーを SPIR-V に再コンパイルして、Vulkan 経由で PC の GPU に渡す | 高 |
| システムライブラリ | PS4 の OS が描画・音声・通信・コントローラーなど多くのライブラリを提供 | ほとんどを自前で再実装(HLE)、一部は本物のモジュールを読み込める(LLE) | 高。作業量が多い |
| ファイルシステム | ゲームはドライブから復号済みのファイルを読む | ゲームフォルダーを PS4 のフォルダー構成に見せかけ、アップデートを重ねる | 中 |
| 入力・音声・通信 | DUALSHOCK 4、PSN など | PC のコントローラーやキーボード・マウスに割り当て。オンラインは独自サーバー(shadPS4 の shadNet) | 中 |
shadPS4 の公式 wiki は「CPU はエミュレートしない」とはっきり書いていて、本当にエミュレートしているハードは GPU だけです。PS4 エミュが数年で「起動するだけ」から「『Bloodborne』が 4K60fps」まで来られた根本的な理由はここにあります。
難しさその1:GPU とシェーダー
ゲーム機のゲームは決まった1種類の GPU 向けに作られています。PS4 のゲームは AMD の GCN GPU がそのまま理解できる形式で、コマンドパケット(PM4 形式)とシェーダー(GPU 上で動く小さなプログラム。光や材質、エフェクトを担当)を作ります。NVIDIA や Intel の GPU はこれを理解できず、AMD の PC 用ドライバーもこういう命令の渡し方は受け付けません。
そこでエミュは次のことをします。
- コマンドパケットの解析:何を、どの状態で、どのテクスチャを使って描くのかを読み取る
- シェーダーの変換:GCN の機械語を SPIR-V(Vulkan 共通のシェーダー形式)に再コンパイルし、PC の GPU ドライバーでコンパイルする
- GPU 特有の動作への対応:たとえば GPU が書き出したデータを CPU が読み戻す「リードバック」。shadPS4 は v0.10.0(2025年7月)でこれに対応し、『Bloodborne』で有名だった「頂点爆発」の描画バグを直しました。
2の処理には時間がかかるので、ゲームが初めてあるシェーダーを使う瞬間に一瞬止まります。これが「シェーダーコンパイルのカクつき」です。結果はシェーダーキャッシュ(shadPS4 では user/cache/<ゲーム番号>)に保存され、2回目からは止まりません。Digital Foundry も2026年1月のテストで、シェーダーキャッシュがあれば『Bloodborne』のカクつきはほぼなくなると伝えています。
PS5 エミュも相手が RDNA 2 になるだけで、やることは同じです。KytyPS5 は RDNA 2 のシェーダーを SPIR-V に再コンパイルして Vulkan 1.3 で描画し、SharpEmu も HLE と SPIR-V へのシェーダー変換を組み合わせています。Tom's Hardware が SharpEmu の進展を報じた記事の見出しも、まさに「シェーダー変換と Vulkan 対応の改善」でした。
難しさその2:PS5 で増えたもの
PS5 の CPU は PS4 と同じ路線なので、開発者は PS4 エミュの経験をそのまま使えます。2026年に PS5 エミュが数週間でインディーを動かせたのはそのためです。ただ、その先は一気に難しくなります。
- 新しい GPU:RDNA 2 は GCN より命令も機能も多く、コマンドの形式やグラフィックス API も PS4 とは別物で、一から解析し直す必要があります。
- 大きなゲーム:PS5 の大作はアセットもシェーダーも PS4 のゲームよりずっと多く、メモリ帯域への要求も高いので、変換のコストが膨らみます。現在の報道では『Demon's Souls』や『アストロボット』は一桁〜数十 fps で、描画の乱れもよくあります。
- SSD とハードウェア展開:PS5 には専用の展開ユニット(zlib と Oodle Kraken に対応)があり、ゲームはデータが非常に速く読み込まれることを前提にしています。PC にはこのユニットがないので、エミュはソフトウェアで処理するしかありません。
- 出遅れ:PS4 エミュは2022年の shadPS4 から数えて4年の積み重ねがありますが、PS5 のまともな公開プロジェクトが現れたのは2026年7月です。
PS5 で PS4 のゲームが動くのは、PS5 の RDNA 2 GPU に PS4 の GCN GPU との互換用の回路が追加されているからで、これはハードウェアの互換性です。エミュにはその回路がないので、ソフトの上では PS4 と PS5 は別々の仕事になります。
別のアプローチをとるのが AnyPS5 です。実行時にエミュレートするのではなく、PS5 ゲームの実行ファイルを Windows・Linux のネイティブプログラムに書き換え(リリンク)、再実装したシステムライブラリと組み合わせます。Steam の Proton に近い考え方で、Tom's Hardware の見出しも、PS5 の AMD Zen 2(x86-64)アーキテクチャがこの Proton 風の方式を可能にしていると説明しています。
現状は PS5 エミュの現状 を見てください。
難しさその3:暗号化
PS4・PS5 のインストールパッケージ(PKG)やシステムファイルは暗号化されていて、復号できるのは本体だけです。エミュが読むのはすでに復号されたゲームフォルダーで、復号はエミュの仕事ではありません。shadPS4 は v0.8.0 で、暗号化されたインストールパッケージ(PKG)を扱うコードを完全に削除しました。ゲームフォルダーの構成やシステムモジュールの置き場所は shadPS4 のファームウェアモジュールとゲーム形式、法律面は PS エミュは違法? で解説しています。
スマホと Apple シリコン Mac が難しい理由
スマホのチップと Apple の M シリーズは ARM64 で、x86-64 のコードを直接実行できません。そのため「CPU はタダ」という PS4 エミュの強みがなくなります。
- Mac:Mac 版 shadPS4 自体が x86-64 のプログラムで、Apple の Rosetta 2 で翻訳しながら動きます。Apple シリコンと macOS 26 以降が必要で、動作報告でも Mac で Playable のゲームは Windows・Linux よりかなり少なめです。
- Android:Bachata S4 のような非公式プロジェクトは FEX で x86-64 をリアルタイムに ARM64 へ翻訳し、shadPS4 のレンダラーと組み合わせています。スマホの GPU は PC よりずっと非力なので、今のところハイエンドの Snapdragon 機で一部のゲームがなんとか動く程度です。詳しくは Android で PS4 は遊べる? へ。
- 「タイトル単位の移植」なら問題の一部を避けられます。Bloodborne-Android は『Bloodborne』の x86 コードをあらかじめ ARM のネイティブコードに変換しておくことで、リアルタイム翻訳を省いています。
用語集
CPU・システム
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| x86-64 | PC の CPU の命令セットで、PS4・PS5 の CPU も同じ。命令セットが同じだからゲームのコードを PC で直接動かせる |
| x86-64-v3 / AVX2 | x86-64 の機能レベルのひとつで、AVX2 などの新しめの命令を含む。shadPS4 はこのレベル以上(Intel Haswell・AMD Excavator 以降)が必要 |
| ARM64 | スマホや Apple M シリーズの命令セット。x86-64 とは互換性がない |
| Rosetta 2 | Apple シリコン Mac で x86-64 のプログラムを動かすための Apple の翻訳機能。shadPS4・KytyPS5 の Mac 版はこれに頼っている |
| FEX | x86-64 を ARM64 に翻訳するオープンソースのレイヤー。Android の PS4 系プロジェクトが使っている |
| Jaguar / Zen 2 | PS4 / PS5 の AMD 製 CPU コアのアーキテクチャ |
| HLE | ハイレベルエミュレーション。エミュがシステムライブラリを再実装する。速いが未実装部分は動かない |
| LLE | ローレベルエミュレーション。本体の元のシステムモジュールを読み込む。正確だがモジュールファイルが必要 |
| 翻訳レイヤー | 機械全体をエミュレートせず、ゲームからシステムやハードへの呼び出しを PC 向けに翻訳する方式。KytyPS5 や SharpEmu はこう自称している |
| リリンカー | AnyPS5 が使う、PS5 の実行ファイルを PC のネイティブプログラムに書き換えるツール |
GPU・描画
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| GCN / RDNA 2 | PS4 / PS5 の GPU の AMD アーキテクチャ |
| GNM | PS4 のローレベルなグラフィックス API。ゲームはこれで GPU に直接命令を出す |
| PM4 | AMD 製 GPU のコマンドパケット形式。エミュは1つずつ解析する |
| シェーダー | GPU 上で動く小さなプログラム。光・材質・エフェクトを担当 |
| SPIR-V | Vulkan が使う共通のシェーダー形式。PS4・PS5 のシェーダーはまずこれに変換される |
| Vulkan | クロスプラットフォームのグラフィックス API。shadPS4 と KytyPS5 は Vulkan 1.3 が必要 |
| MoltenVK | Vulkan を Apple の Metal に変換するレイヤー。KytyPS5・SharpEmu の Mac 版が使用 |
| シェーダーキャッシュ / パイプラインキャッシュ | コンパイル済みシェーダーの保存先。2回目以降のカクつきを防ぐ |
| シェーダーコンパイルのカクつき | 新しいシェーダーを初めてコンパイルするときの一瞬の停止 |
| リードバック | GPU が出したデータを CPU が読み戻すこと。shadPS4 は v0.10.0 でこれに対応し、Bloodborne の頂点爆発を直した |
| FSR | AMD のアップスケーリング技術。shadPS4 は v0.7.0 から対応 |
ファイル・ゲーム
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| PKG | PS4・PS5 のインストールパッケージ形式で、暗号化されている。shadPS4 は v0.8.0 からインストール非対応 |
| eboot.bin | ゲームのメインの実行ファイル |
| param.sfo | sce_sys フォルダーにあるメタデータ(タイトル名・番号・バージョン) |
| .sprx / .prx | PlayStation の動的ライブラリファイル |
| sys_modules | shadPS4 で PS4 のシステムモジュール(.sprx)を置くフォルダー |
| PUP | PlayStation のシステムアップデートファイル(PS4 は PS4UPDAT.PUP) |
| CUSA / Title ID | PS4 ゲームの番号。英字4文字と数字5桁で、地域ごとに1つずつ |
| アップデート / DLC | shadPS4 ではそれぞれ <フォルダー名>-UPDATE、user/addcont に置く |
互換性の区分(shadPS4・SharpEmu などで共通)
| 区分 | 意味 |
|---|---|
| Playable | 普通に遊べる。小さな不具合はありうる |
| Ingame | ゲーム内に入れるが、大きな不具合があるか遅すぎる |
| Menus | メニューやタイトル画面まで |
| Boots | 起動して何か映るが、メニューまで行けない |
| Nothing | 起動しない |
オンライン・その他
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| PSN | ソニーの PlayStation Network。エミュは接続しない |
| shadNet | shadPS4 チームの独自オンラインサーバー。v0.20.0 からエミュで『Bloodborne』のオンラインが可能に |
| リモートプレイ | 実機の映像を PC やスマホに配信する機能。エミュではなく、詐欺がエミュに見せかけるのによく使う |
| ネイティブ移植 | 1本のゲームを PC やスマホのネイティブプログラムに書き換えたもの。『Bloodborne』の bbport など。汎用エミュではない |
すぐに遊びたい人は PS4 エミュ おすすめ と PS4 エミュの必要スペック をどうぞ。
よくある質問
PS4 エミュはなぜこんなに早く進んだのですか?
PS4 の CPU が PC と同じ AMD の x86-64 だからです。shadPS4 の公式 wiki は「CPU はエミュレートしない」と書いていて、ゲームのコードは PC の CPU で直接動き、エミュは GPU とシステムライブラリだけを担当します。一方、PS3 は PC とはまったく違う Cell プロセッサーを使っていました。
PS5 は PS4 より何が難しいのですか?
CPU はどちらも x86-64 なので大差ありません。難しいのは GPU で、PS5 は新しい RDNA 2 アーキテクチャを使い、グラフィックス API や命令の形式も PS4 と違います。ゲームの規模も大きく、PS5 専用の展開ハードや高速 SSD を前提にしています。さらに、まともな公開 PS5 エミュが出てきたのは2026年7月で、PS4 より何年も遅れています。
エミュがカクつくのはなぜですか?
主な原因はシェーダーのコンパイルです。ゲームのシェーダーは PlayStation の AMD 製 GPU 向けに書かれているので、エミュは初めて出てきたときに SPIR-V へ変換し、PC の GPU ドライバーでコンパイルします。このときに一瞬止まります。結果はシェーダーキャッシュに保存されるので、2回目からは止まりません。
スマホで PS4 エミュが難しいのはなぜですか?
スマホのチップは ARM なので、PS4 の x86 コードをそのまま実行できません。FEX のような翻訳レイヤーで ARM に変換する必要があり、それだけで大きく性能が落ちます。スマホの GPU も PC よりずっと非力です。そのため Android にあるのは実験的なプロジェクトだけで、ハイエンドの Snapdragon 機が必要です。
PS5 で PS4 のゲームが動くのに、エミュはなぜ両対応できないのですか?
PS5 が PS4 のゲームを動かせるのは、CPU が同じ x86-64 で、RDNA 2 GPU に PS4 の GCN GPU との互換用の回路が追加されているからです。これはハードウェアの互換性です。エミュにはその回路がないので、すべてソフトで作り直すしかなく、PS4 と PS5 は別々の仕事になります。SharpEmu などには PS4 互換モードがありますが、まだ初期段階です。
HLE と LLE とは?
HLE(ハイレベルエミュレーション)はエミュが本体のシステムライブラリを自前で再実装する方式、LLE(ローレベルエミュレーション)は本体の元のシステムモジュールを読み込む方式です。shadPS4 は HLE が中心で、LLE で読み込めるのは一部のモジュールだけです。
出典
- shadPS4 公式サイト
- Wikipedia:PlayStation 4 technical specifications
- Wikipedia:PlayStation 5
- PlayStation.Blog:PS5 のハードウェア技術仕様の詳細(2020-03-18)
- Eurogamer / Digital Foundry:PS5 のスペックと技術(2020-03-18)
- Emulation General Wiki:PlayStation 4 emulators
- Emulation General Wiki:PlayStation 5 emulators
- Tom's Hardware:SharpEmu で6本が 60fps、シェーダー変換と Vulkan 対応が進展(2026-09-27)
- Tom's Hardware:AnyPS5 は PS5 ゲームを PC ネイティブで動かす(2026-09-26)
- KytyPS5 公式サイト
- VideoCardz:SharpEmu・KytyPS5 がコミュニティ主導に(Mac は MoltenVK、2026-07-17)
- Notebookcheck:shadPS4 が AMD FSR・HDR に対応(2025-03-24)
- Wccftech:shadPS4 0.10.0 で Bloodborne の頂点爆発を修正(2025-07-07)
- Digital Foundry:Bloodborne の PC エミュが 4K60fps 超に(2026-01-17)